まず結論:何が変わろうとしているのか
案件番号145210735は、接続政策の第一次答申(案)に対する意見募集です。正式名称と募集主体は、総務省の情報通信審議会がまとめた答申案本文と概要で確認できます。現時点で新しい料金や接続ルールが確定したわけではありません。
答申案が示す方向は、大きく3つです。
- 固定電話の音声接続では、事業者間で接続料を相互精算しない「ビル&キープ方式」を原則に近づける
- メタルIP電話の接続料で使ってきたLRIC方式(効率的な仮想ネットワークの費用を基準に接続料を算定する方法)を、設備の縮退やIP化後の実態に合わせて見直す
- 仮想化・クラウド化したコア機能や5Gスライシング(用途ごとに通信品質や帯域を分ける技術)を、競争政策の対象としてどう開放するか検討する
つまり、昔の固定電話網を前提に作られた接続制度を、ブロードバンド、モバイル、クラウド中心の市場へ移すための設計図です。通信事業者だけでなく、MVNO、クラウド・ネットワーク事業者、法人利用者、通信サービスを使う人にも関係します。
なぜ今、接続政策を見直すのか
競争の中心がメタル固定電話から移った
答申案の問題意識は、固定電話が不要になったという単純な話ではありません。通信市場の競争の中心が、メタル回線による固定電話から、光回線、ブロードバンド、モバイルへ移ったことが出発点です。
固定電話の契約数と音声トラヒックは長期的に減少しています。答申案では、固定電話・ISDNの契約数が1997年の約6,285万件から2024年度には約1,253万件へ減ったこと、音声トラヒックも2000年のピークから大きく減ったことが示されています。利用が減った一方で、旧来の接続料計算、事業者間精算、設備維持の仕組みは残っています。
PSTNからIP網への移行が一区切りついた
NTT東日本・西日本のPSTNからIP網への移行は、2024年12月に完了しました。固定電話やISDNのサービスを直ちに廃止するという意味ではなく、メタル回線の電話をNGNなどのIP網で提供する形へ移ったということです。
移行後は、従来のように全国各地の電話交換機を相互接続する前提が変わります。答申案は、IP化後の接続点やトラヒックの実態に合わない精算を続けることが、事業者の事務負担や制度運用コストにつながると指摘しています。
メタル設備は2035年頃に維持が難しくなる
答申案は、メタル固定電話の設備について、2035年頃までにサービスレベルの維持が難しくなる見通しを示しています。これは「2035年に固定電話が一斉終了する」という予告ではありません。設備の更新・撤去、利用者への周知、災害時や緊急通報を含むサービス継続を、接続制度と一体で準備する必要があるという意味です。
クラウドと5Gで「接続」の意味も変わる
ネットワークの中核機能は、専用設備だけでなく、仮想化されたソフトウェアやクラウド上の機能として提供され始めています。5Gでは、用途ごとに通信品質や帯域を分けるネットワークスライシングも想定されています。
物理的な接続点を貸し出す制度だけでは、SaaSとして提供されるコア機能や、モバイル網の機能開放を十分に扱えません。今回の答申案は、誰が中核機能を持ち、どの条件で他社が利用でき、障害時の責任を誰が負うのかを、競争政策の論点として扱おうとしています。
過去からの流れ:今回の案は突然出てきたのか
今回の案は、単発の料金政策ではなく、約30年続く接続制度の更新です。
| 時期 | 制度・市場の動き | 今回との関係 |
|---|---|---|
| 1997年 | NTTの第一種指定電気通信設備を指定 | 他社が不可欠設備へ接続する規制の出発点 |
| 1999〜2000年度 | NTT東西の指定、LRIC方式を導入 | 効率的な仮想網を前提に接続料を算定 |
| 2021年 | IP網への移行を踏まえた接続制度の最終答申 | ビル&キープを含む次の制度課題を整理 |
| 2023年 | 接続制度の在り方に関する第七次報告書 | 音声接続の精算方法を継続検討 |
| 2024年3月 | 事業者間の合意による限定的なビル&キープを可能にする制度対応 | 原則化へ向けた実験的な段階 |
| 2024年12月 | PSTNからIP網への移行が完了 | 従来の固定電話網を前提にした制度の見直しが現実課題に |
| 2025年1月〜2028年3月 | メタルIP電話の接続料に現行LRICを適用 | 過渡期の算定方法をどう扱うかが論点に |
| 2025年10月以降 | 総務大臣の諮問を受け、情報通信審議会で検討 | 事業者・有識者の意見を踏まえて答申案を作成 |
| 2026年 | 第一次答申(案)の意見募集 | 今回のパブコメ |
| 2031年度まで | 全事業者へのビル&キープ適用を遅くとも目指す方向 | 目標時期であり、現時点の確定法令ではない |
この経緯から分かるのは、今回のパブコメが「誰かが急に思いついた改正」ではなく、IP化の工程、過去の答申、事業者間協議を積み上げたものだということです。
改正を望む理由は何か:行政の狙いと事業者の主張を分けて見る
行政・審議会側の問題意識
答申案が整理する行政上の狙いは、次の4点です。
- 音声トラヒックが減る中で、旧来の精算・届出・規制対応コストを抑える
- IP化後の接続形態に合わせ、制度を実際のネットワーク構成に近づける
- メタル設備の縮退に備え、移行期間、利用者保護、緊急通報などを整理する
- クラウド・5G時代に、特定事業者の機能独占で競争が止まらないよう開放ルールを検討する
ここでいう「効率化」は、単なるコスト削減ではありません。制度を簡素にしすぎると、小規模事業者が接続料を回収できなくなったり、利用者が選べるサービスが減ったりする可能性があります。そのため、答申案も一律の精算廃止だけでなく、例外、移行、激変緩和を併せて議論しています。
事業者の賛成意見
ビル&キープ方式を支持する事業者からは、事業者間の請求・精算、接続料の認可・届出、関連システムの運用を簡素化できるという意見が出ています。料金設計や新サービスの展開が柔軟になり、接続料交渉にかかる経営資源を投資へ回せるという説明もあります。
事業者の懸念・反対意見
一方で、トラヒックの発信・着信が大きく偏る事業者、規模の小さい事業者、法人向けの高品質な音声サービスを提供する事業者からは、次の懸念があります。
- 着信が多い事業者の収入が減り、サービス継続が難しくなる
- 事業者間の費用と収益のバランスが崩れる
- 緊急通報、国際通話、特定番号などを一律に扱えない
- 制度変更、契約変更、システム改修の期間が足りない
賛成・反対を「通信業界の総意」としてまとめるのではなく、どの事業者のどのコストや収益構造に影響する意見なのかを分けて読むことが重要です。
論点1:ビル&キープ方式はどこまで広がるのか
ビル&キープは、発信側と着信側の事業者が、通常の音声接続料を相互に請求・精算しない方式です。答申案は、一般的な双方向の通話について、この方式へ移る方向を示しています。
ただし、構造的に片方向となる呼は別扱いが必要です。答申案では、0AB0、00XY、1XY、110・118・119、国際通話などを例に、簡素な精算、収入分配、別の費用負担方式を検討しています。緊急通報を含むため、効率だけでなく、接続の確実性とサービス継続を意見に書く必要があります。
また、制度変更は一日で切り替わりません。答申案は、事業者への通知、契約・システムの変更、利用者への周知、必要に応じた激変緩和を含む移行期間を想定しています。2031年度は「遅くともこの時期までに原則化を目指す」という目標であり、答申案だけで実施日や料金が確定するわけではありません。
論点2:LRIC方式はなぜ見直されるのか
LRIC(長期増分費用方式)は、現在の最も効率的な設備・技術で仮想的なネットワークを作った場合の費用を基準に、非効率な設備保有の影響を接続料から除く考え方です。2000年度に導入され、その後、技術や市場の変化に合わせてモデルが更新されてきました。
この方式が問題になるのは、算定モデルが現実の設備と離れ始めたからです。メタル設備が縮退し、PSTNからIP網への移行が終わると、「現在もっとも効率的な設備」を仮定してメタル回線の費用を計算する意味が小さくなります。答申案は、ビル&キープを原則化する場合にはLRICの適用を終了する方向を示しつつ、実費方式、段階的移行、別のベンチマークなどを今後の論点として残しています。
したがって、この記事で「LRIC廃止」と断定するのは不正確です。正しくは、ビル&キープへの移行と整合する形で、LRICをいつまで、何に置き換えるかが検討中です。
論点3:SaaS化したコア機能と5Gスライシング
今後のネットワークでは、加入者管理、認証、ポリシー制御などのコア機能が、専用装置ではなく仮想化ソフトウェアやクラウドサービスとして提供される可能性があります。便利になる一方、少数のクラウド・機能提供者に依存すると、通信事業者が乗り換えられず、競争条件が固定されるおそれがあります。
5Gスライシングも同じ問題を含みます。用途別に品質を分けられる反面、接続点、API、障害時の責任分界、他社網との相互運用性が不透明だと、利用者やMVNOが新しいサービスへ参入しにくくなります。今回の答申案は、特定のクラウド製品やベンダーの採用を決めるものではなく、開放が必要な機能と競争ルールを検討する段階です。
MVNOについても、L2接続など既存の方法だけでは、将来のネットワーク機能を十分に使えない可能性があるため、開放を促す機能を整理し、今後ガイドラインを見直す方向が示されています。ここも最終ルールではなく、次の検討とパブコメにつながる論点です。
政党の提案やマニフェストなのか
結論から言うと、この案件の直接の出所は、政党のマニフェストではありません。2025年10月に総務大臣が情報通信審議会へ諮問し、同審議会の部会・委員会が事業者や有識者から意見を聞いて作成した第一次答申(案)です。パブリックコメントも、行政機関が答申案の内容を確定・具体化する前に広く意見を集める手続です。
政党の政策と通信政策の方向が重なることはあります。しかし、今回確認した範囲では、自由民主党の2026年J-ファイルは5G、光・IX、データセンター、Beyond 5Gなどを掲げているものの、ビル&キープやLRICの今回の制度案を明記していません。日本共産党の2026年政策も、ブロードバンド・5G、ユニバーサルサービス、NTTの責任や利用者負担を扱っていますが、今回の答申案の方式を提案したものではありません。両党の資料は、政策環境を知るための参考確認であって、案件の根拠資料ではありません。
なお、公明党が2019年に携帯料金やMVNOの接続料算定を取り上げた例はありますが、今回の固定電話のビル&キープ・LRIC見直しと同じ政策提案とみなすことはできません。政党の過去の主張と、総務省・審議会が今回作成した答申案は、出所と時期を分けて扱う必要があります。
意見を書くなら、どこを具体化するか
「賛成」「反対」だけでは、どの制度設計を変えるべきか伝わりにくい案件です。次のように、論点・影響・修正案をセットにすると意見を作りやすくなります。
| 論点 | 確認したい影響 | 意見に入れられる要望の例 |
|---|---|---|
| ビル&キープの対象 | 小規模事業者、着信が多い事業者、利用者料金 | 対象外の呼、例外基準、事前検証を明示してほしい |
| 移行期間 | 契約、請求、交換機・業務システムの変更 | 変更時期、通知期間、激変緩和の条件を示してほしい |
| LRICの終了・代替 | 接続料、投資、事業者間の費用負担 | 実費方式などの比較と影響試算を公開してほしい |
| 緊急通報・災害時 | 110・118・119、停電・障害時の接続継続 | 費用負担と責任分界を通常通話と別に定めてほしい |
| SaaS・5G開放 | MVNOや新規事業者の参入、障害対応 | 接続条件、API、データ移行、障害時の責任を明確にしてほしい |
締切と提出方法
政府の公式締切は2026年7月30日23時59分です(e-Govの案件ページ)。パブコメ.comでは、確認・送信のための運用受付締切を前日の2026年7月29日23時59分として表示しています。実際の提出は、必ずe-Govの公式案件ページと意見公募要領を優先してください。
提出方法は、e-Govの意見提出フォーム、電子メール、郵送です。提出先、様式、件名、匿名で提出できる範囲などは意見公募要領で確認してください。答申案本文のどの章・項目への意見か、想定される影響と具体的な修正案を添えると、行政側が論点を把握しやすくなります。
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FAQ
これは新しい通信料金が決まるパブコメですか?
いいえ。接続料や競争ルールの見直し方向を検討する第一次答申(案)への意見募集です。具体的な制度改正、料金、実施日はこの時点で確定していません。
ビル&キープ方式は導入が決定したのですか?
答申案は原則化に向けて検討を進める方向を示していますが、対象となる呼、例外、移行期間、激変緩和措置は今後の検討事項です。
LRICはすぐ廃止されますか?
廃止時期と代替方式が確定したわけではありません。ビル&キープへの移行と整合する形で、現行LRICの扱い、実費方式、段階的移行などが検討されています。
政党のマニフェストに書かれた政策ですか?
今回の案件の直接の出所は、総務大臣の諮問を受けた情報通信審議会の検討です。政党の政策資料に似たテーマがあっても、今回の答申案と同一の提案とは限りません。
誰が意見を提出できますか?
意見公募要領を確認のうえ、通信事業者、関連事業者、団体、利用者など、論点に関係する人や組織が提出できます。提出要件と方法は公式資料を優先してください。